歴史に埋もれた幻のモデル
“バスケットボールの神様”ことマイケル・ジョーダンのルーキーシーズンにあたる1985年、記念すべき1stシグネチャーモデルAIR JORDAN 1が一般発売を迎えた。
西暦がイエス・キリストの誕生を基準に紀元前後と表現するように、スニーカー史でもAJ1の登場前後で明確な線引きができるほど、シーンに与えた影響の大きさは筆舌に尽くしがたい。
だが、AJ1の誕生前にAIR SHIPと呼ばれるバスケットボールシューズも彼を支えていた事実は、 多くの人に知られず歴史の中に埋もれてしまっている。2020年に初復刻されるまで幻のモデルとも称されていた同モデルが、新たに4カラーを纏い6月28日（水）に発売されることが決定した。
言わば、AIR SHIP PE SPはAIR JORDAN 1の原型だ。
足首の保護や捻挫防止の観点からハイカットを採用したシンプルで細身のシルエットで、つま先にかけてのホールド力をより高めるため、トゥに近い3つのアイレットに補強パーツを配置しているのが特徴。
そして、今回登場する4カラーは、それぞれ素材使いや加工が異なる贅沢な仕様で、レッドはアッパーの大部分がスエードだがスウッシュやアイレットはひび割れ加工を施したレザーであるのに対し、ブルーは素材配置をその逆に。
一方のグレーは、アッパーの大部分がレザーだがスウッシュやアイレットはスエードで、グリーンは全てオールレザーとなっている。また、グレーとグリーンはヒールにクラシックな“NIKE AIR”の文字があしらわれているが、レッドとブルーには筆記体で“Every Games”の文字を刺繍。
これは、ジョーダンが15年間の選手生活の中でゲン担ぎとして、ユニフォームの下に母校ノースカロライナ大学の練習用ショーツを“毎試合”着用していたことに由来したものである。
PHOTO: SOTHEBY’S
最初期のジョーダンを支えた代替モデル
地元の強豪だったノースカロライナ大学に進学した若き日のマイケル・ジョーダンは、ルーキーイヤーに同校を2度目のNCAAチャンピオンに導くと、2年生で全米ジュニアに選抜され、3年生で全米最優秀選手賞を受賞し、4年生でNBAドラフトにアーリーエントリーすることに。そして、シカゴ・ブルズへの入団が決まった直後に開催されたロサンゼルス・オリンピックでも金メダルを獲得し、NBAでの成功が約束された天才をどのブランドが支えることになるのか、全米が関心を寄せていた。
紆余曲折を経て、NIKEがオリジナルのシューズとアパレルを制作することを条件に契約を勝ち取り、すぐに開発に着手。だが、1984-85シーズンのNBA開幕まで残り数カ月という中で、そう簡単にシグネチャーシューズのアイデアが固まるはずもなく、のちのAIR JORDAN 1が完成するまでの代替モデルとして用意されたのがAIR SHIPだった。
このため、当時のプレマッチや幾つかの前半戦を闘うジョーダンを見返すと、AJ1ではなくAIR SHIPを着用していることが分かる。また、"マイケルジョーダンは試合でブラック×レッドのAJ1を履くたび罰金を支払っていた"という逸話も、一説にはAJ1ではなくAIR SHIPだったとも噂されているのだ。
AIR SHIPはAIR FORCE 1(1982年発売)の生みの親として知られるブルース・キルゴアがデザインしており、AJ1の原型ではあるが"AIR"の名の通りAF1の後継に当たる。そしてAF1が大統領の搭乗時にアメリカ空軍機が使用するコールサインからモデル名を拝借したように、"SHIP"は海上に浮かぶ船ではなく飛行船がルーツだ。AIR SHIPが不思議な魅力を放つのは、"AF1の後継でAJ1の原型"だからかもしれない。
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